ではロケハンをしよう。那須岳で爆風を浴びる
2021/10/02
台風一過の土曜日、始発で黒磯へ向かう。宇都宮から各停に乗り換えると(ここもまだ上野東京ラインと呼んでいいらしい)、緩急のついた列車の進行がもどかしい。家を出て2時間ほどが経っているから、ついまどろんでしまう。
駅前からバスに乗りかえ、那須高原を北へ進む。景観に配慮したセブンイレブン、地味にきつい勾配、硫黄の匂い。
標高が高くなるにつれて、紅葉が見られるようになる。今回登る那須岳には、ロープウェイの力を借りて上の方まで行くので1400mあたりの山麓駅で下車。車外は12月の早朝くらいの冷え込み。たまらず小屋に駆け込み、諸々の装備をダッシュで着用する。石油ストーブは鼻腔からも暖かさを伝えてくれる。
ロープウェイに乗るのはほんの数分で、あっさりと山頂駅に到着。およそ3.5時間の道のりだった。
肌寒いくらいの気候だが、日差しのある間はちょうどいいくらいになる。大神が雲に隠れてしまうと、ちょっと落ち着かないくらいの体感温度になる。いうても歩いているとあったまってくるんやけど。
那須岳というのはこの辺りの山々の総称で、今登っているのは茶臼岳という。山頂へ至る道は砂利道が主で、歩きづらいが急所もとくにない。しかし人の往来が激しいので狭いところでは待ちが発生するし、前の人に合わせる必要もある。煩わしいと言ってしまえばそこまでだが、山登り初心者的にはちょっと緊張しているところに人に同調する安心感を与えてくれる。人ごみを嫌いになってはいけないなと思う。
山頂が近づいてくると、だんだんと風が強くなってくる。それと同時に遮蔽物がなくなっていて、山の裏手(西側)から吹いてくる風が直接届くようになっていることにも気づく。どうしようもないので、歩を進める。
とりえず山頂につき、おはちまわりをする。山体が守ってくれていたこれまでとは違って、断続的に強い風が吹き付ける。会話もままならない。
ここの神社には火雷神(八雷神)が祀られているそう。風を鎮めてくれませんか。
避難小屋側に下山して、北の朝日岳を目指すルートをとった。これまで登ってきた道の反対側なので、当然風がおさまることもない。もうシンプルにつらい。体温も奪われるのでフードを被り、その中に風をためながら歩を進める。現在地はすでに雲に呑まれ、雨なのか水蒸気なのかよくわからないもので顔面がしっとりと濡れている。幸いなことに山道に難所はなく、雨風に抗いながら歩くだけでよかったので、初心者にもなんとかなる。しかし寒い。
避難小屋が近づいてくると、開けた場所なので相変わらず爆風なのだが、日差しもあるし人混みも見える。アドレナリンでギンギンの脳が少しづつ落ち着きを取り戻していく。避難小屋周辺は行楽客でごった返し、ジーパンスニーカーのお兄さんも、歩ける格好をしたお年寄りたちも、何泊してはるんですか?な若干名も、ここでは等しく息をつける。しかし爆風なので小屋の陰から出るともう声が聞こえない。ここにいると安心はするがはやくやることやって下山したい。
朝日岳を目指す。岸壁にはりついた道を進む。山体の陰に入るとうそのように凪ぎ、振り返る余裕ができた。防寒具を外し、てくてくハイキング気分に戻ることができるが、ふとした拍子に爆風を感じるとまた装備しなくてはならない。初めてのルート。どれくらいでどうなるのかはよくわからないので、とりあえず手袋だけ外す。ちょっと暑いけどすぐまた寒くなるだろう、次はきっとこんな道だろう。この中途半端を感じる時間がすこし愛らしい。
しばらく歩くとまた、爆風広場である。写真を撮っているともっていかれる。トレーニングも兼ねてザックに重めの機材を余分に入れているので、スンと転ぶ。恥ずかしいぐらいに転ぶ。いつか◯ぬ。
そして馬の背を登る。先人たちがポールや鎖を立ててくれているのでなんとかなっているが、爆風と狭小な足場、崩れかけみたいな登山道。
風の切れ間に、必死でシャッターを切る。曇りがちな今回の山行にあって、急な晴れ間が見れたことは僥倖である。このまま晴れ晴れとした気持ちで朝日岳を踏破したい。
登って降りて、壁づたいして、ようやく広場に出る。ここはベンチも置かれているような休憩スポットになっている。しかし今日に至っては、風が強い。さぁあと一息。
先程の広場から10分ほど登り、朝日岳に到着。「ここってあそこから見えてたあれなのね(経験のある人はわかるとおもいます)」がアツい。憧れのあの場所に今立っている感がすごい。遠目では絶対行けなさそうなところにいつの間にかたどり着くのがすごい。
当然のことだが、ここまでが往路。これから帰らなくてはならない。でもここから見える景色はとても好奇心と旅情をくすぐるものである。先へ進みたい気持ちを抑え、帰路に着く。
馬の背をまた越えるとき、往路以上に体力を使う。風は若干弱まっているが、下りは登ってくる人に気を遣うからなんとなくリズムに乗り切れないまま歩く。しかし頭上には青空が広がり、雲の流れもずいぶん落ち着いている。幸運にも復路はウイニングランの様相を呈する。
往路の避難小屋は全く心休まる場所ではなかったのだが、人溜まりがかなりすっきりしていて中で食事をする余裕もあった。ああ、帰ってきたよ......。カップヌードルを汁まで飲み干し、靴紐を結び直して歩き始める。跳ねながら、山のトイレ事情に文句を吐きながら、下山道を急ぐ......おや、こんなところに散歩で来ている犬がいる。